2017/12/15

What have you done?

東京生まれ、ほぼ東京育ちの私にとって、
関西弁は魔法の言葉。
とくに、御年78歳のポルトガルワインのレジェンドKさんの関西弁は
弾むように柔らかくて、聞いていてとても心地よかった。

それはきっと、Kさんの人柄や、
ポルトガルワインへの愛情のせいでもあるのだろうけれど。
いつも砕けた感じで、
もちろん本人は砕けてるつもりはないんだろうけれど、
なんとなくスーッと始まるKさんとの会話は、
楽しくてためになることばかりだった。
面白くて、つい年齢を忘れて、友達感覚になっている自分がいた。
そんなことも、ちっとも気にせず許してくれるKさんだった。

さらには、いつも目が合うと向けてくれる、
思わず両手で包み込みたくなるような優しい笑顔。
そしてなにより、大胆で思い切りのいい行動力。
なにしろ、日本ではほとんど全く注目される事のなかったポルトガルのワインを、
もう半世紀近くもずっと真摯に、情熱的に、
ただただ自分が好きだからという理由だけで、追いかけてきた人だ。
こんなにチャーミングで、かつ素敵な仕事を現役でされている大先輩がいることが、
私は心の底から嬉しかった。
会社に所属せず、フリーランスで働いている私にとって、
Kさんは架空のポルトガルワイン会社の会長のような存在だった。

つい2週間ほど前、
いつもは必ず最終の新幹線で大阪に帰ってしまうKさんが、
その日は珍しく東京に泊まるから、ぜひご飯をいっしょにどうですか、
とお誘いを受けた。
それが本当に嬉しくて、それならKさんを慕う人にも声をかけて、
ポルトガル料理店でみんなで楽しく飲みましょう、ということになった。
年齢のこともあり、仕事のペースを少し落とすことにしたKさんへ、
感謝の気持ちを伝えたいというのが一番だった。
料理店でKさんの隣に座った私は、
今まで聞いてみたいと思っていたKさんとポルトガルワインとの馴れ初めや、
輸入しているワインとの出会い、造り手への想い、
そして今のポルトガルワインについて思うことなど、
あれこれ質問し、あの弾むような関西弁で答えてもらって、
本当にいい時間をいただいた。
Kさんと私が、
手に入れやすい価格のデイリーワインこそ質の良いものであるべきという点、
料理があってこそのワインだという点、
そして、好きなデイリーワインの銘柄が同じだったこともあり、
あの晩は何度握手してもらったことだろう。
まだ、Kさんの手の柔らかい感触が残っている。

それなのに、昨日の早朝、突然旅立ってしまったKさん。
今度は大阪で飲みましょうと話していたのに。
まだまだ、ポルトガルワイン黎明期の話しを伺いたかったのに。
一緒にポルトガルのワイナリーも訪ねたかったのに。
いつもやることが大胆過ぎますよ、Kさん。


Kさんが日本に紹介してくれた、
ポルトガル北部のワイン「アフロス」シリーズ。
すべて自然な造り。この色の美しさ!

今朝、ラジオを聴きながら仕事をしていたら、
ジョン・レノンの「ハッピークリスマス」が流れてきた。

So this is Christmas, what have you done?
もうクリスマスやねえ、今年はどないなことしましたか?

なぜかそんな風にKさんに聞かれたような気がして、
Kさんに褒めてもらえるような仕事をしていきたい、と思った。
Kさんはもう近くにはいないけれど、
きっと旅先で、おそらく愛するアレンテージョの地か、ダンか、ミーニョか、
Kさんの好きな場所で、
思う存分ポルトガルワインを飲みながら、
私たちの仕事を見てくれている気がするから。

Kさん、今まで本当にありがとうございました。
What have you done?
に応えられるように、楽しみながら進みますね。

でも、やっぱり寂しいなあ。


0 件のコメント:

コメントを投稿